No 93
絵本のタイトル かさ
作者 太田大八
太田大八
訳者
出版社 文研出版

93  『 かさ 』

みっちゃんは今日がお誕生日、お母さんはごちそうの準備に大忙しです。そこに突然の雨、天気予報では何にも言っていなかったのに。お母さんが困っていると、みっちゃんは、「わたし、お迎えにいってあげる」と言うと、買ってもらったばかりのお気に入りの赤いかさとお父さんの大きな黒いかさを抱えて、さっさと出かけていってしまいました。お母さんは、ちょっと時間が早いかしらと思いましたが、お父さんも今日は会社が終わればすぐに帰ると言っていたし、それに、みっちゃんはきっと寄り道しながらだから丁度いいのかもと、また仕度にとりかかりました。

駅までは少し遠いのですが、お母さんと何度もお迎えに行ったことがあるので、道は良くわかっていたし、それにみっちゃんは、大好きな赤いかさをさして歩きたくてたまらなかったのです...。 。

この絵本には言葉がまったくありません。だから、女の子の名前がみっちゃんなのか、今日が本当に誕生日なのかもわかりません。その時々の気持ちによって、物語がいくつも生まれます。

林明子さんの『はじめてのおつかい』などでは、子どもの緊張や、親の不安が大きなテーマとなっていますが、この絵本からは、それらが一切感じられないことや、時間がゆったりと流れているように感じられることなども、大きな特徴かと思います。 この絵本が出版されて30年が経ちますが、何が変わって、何が変わらずにきたのでしょう。今は、たとえ急に雨に降られても、どこの駅前にもあるコンビニで、何百円かのかさを買うこともできますし、携帯で、「あと何分で駅に着くから」と連絡すれば、車でさっとお迎えが来て、お互いに、何分も何十分も待っていることなどないのでしょう。それに、黒いかさもとんと見なくなりました。赤いかさの女の子のように、子ども一人の雨を楽しみながらの寄り道も、今は難しいのかもしれません。変わらないのは、雨だけなのでしょうか。(S.T)

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