No 35
絵本のタイトル ロバのシルベスターとまほうのこいし
作者 ウィリアム・スタイグ
ウィリアム・スタイグ
訳者 瀬田貞二
出版社 評論社

35  『 ロバのシルベスターとまほうのこいし 』

私の幼稚園では、家庭で使わなくなった食器などを貰って、ままごとや砂場の道具として使っています。ある日、4歳の女の子がままごとをしている時に、道具の中に醤油さしのビンをみつけ、そっと蓋を開けて匂いを嗅いでいるのを見たことがありました。その時私は、あの子はきっとビンを見つけた時に家のことをなんとなく思い出し、その匂いを嗅ぐことによって、無意識のうちに自分の中にある思いを確かめようとしているのだろうと感じました。

実際にその物を見たり、聞いたりしなくても、思いが強ければ強い程、何かちょっとしたものや出来事をきっかけに記憶や感情が浮かび上がってくることがあります。そのきっかけは、微かな匂いであったり、触れたときの温かさであったり、さらにもっと抽象的な言葉にできない雰囲気のようなものであったりするのかもしれません。家族との愛情や記憶といったことは、その人(多分ロバであっても)の全ての感覚と密接にそして複雑に結びつき、心の中一杯に張りめぐらされているからこそ、なおさら敏感に感じとることができるのだろうと思います。そして今回ご紹介する『ロバのシルベスターとまほうのこいし』では、愛情深い家族ならではの、この不思議な感覚が重要な意味を持っているのです。

お話は、ロバのシルベスターが、何でも望みのかなう魔法の小石を見つけた喜びも束の間、ライオンから逃れるために、魔法の力で自ら岩になってしまうということから始まります。昔から、急に魔法が使えるようになったり、何か願い事がかなえられるようになった時には、得てしてあまり良い結末にはならないということの典型というわけです。さらに、岩になってしまったシルベスターは身動き勿論のこと、言葉を発することもできません。しかし、そんなシルベスターにもたった一つできることがあったのです。それは、思うこと、願うことでした。そして、そんなシルベスターの思いと、ここにシルベスターが居てくれたらという親の強い思いが重なりあった時、奇跡が起こるのです。(T.S)

 

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