No 32
絵本のタイトル 3びきのぶたたち
作者 デイビィッド・ウイズナー
訳者 江國香織
出版社 BL出版

32  『 3びきのぶたたち 』

この絵本は、有名な『三びきのこぶた』のお話でも、単なるパロディーでもありません。この絵本は、『三びきのこぶた』に登場するこぶた達を主人公に、謎に満ちた絵本の世界を描いているのです。
 絵本の世界というものがあることは、それぞれの絵本の主人公達には勿論のこと、殆どの人には知られていません。しかし、一番目のこぶたが、わらの家もろともおおかみに吹き飛ばされ、絵本の世界に飛び込んでしまったことをきっかけに、その謎が次第に明らかになっていきます。絵本の世界は、映画『マトリックス』の武器庫のシーンよろしく、全ての絵本の1ページずつが整然と配列されている空間です。そしてこの空間からはどの絵本のページの中にも入り込むことができるというわけなのです

絵本の主人公達が、本から抜け出して活躍するというお話は今までにも多くありました。ウイズナー自身が7年前に描いた、少年が夢の中でいろいろな本の中を旅するという内容の『フリーフォール』という作品もそれに近いものだと思います。しかし、それまでの作品と違っているのは、ウイズナーはこの作品の中で、絵に立体感を持たせるということを第一に考えていたということです。それは、平面である絵本から抜け出すためには、3次元以上の空間が必要だという思いからきているのだろうと思います。
絵本から抜け出すという話も、立体的な描写の絵本もそれぞれには沢山ありました。しかし、両者を絶妙にマッチさせ、不思議な世界を描き出そうとしたウイズナーのアイデアとそれを可能にした描写力の高さには、流石だとうならされてしまうのです。

私の頭の中にも、実は絵本の世界があります。しかし、絵本についての記憶が、この本のように整然と並んでいるのではなく、かなり乱雑に散らばっています。そのためもあってか、何かの絵本の記憶を呼び戻した時に、時々話の筋が入り交じってしまっていることがあります。そんな時は、「あーあ、年をとって記憶も曖昧になってしまったなぁ」と思ってしまっていたのですが、実はそうではなく、絵本の世界に飛び出した主人公たちが勝手に他の話の中に紛れ込んでいるからなのだということが、この絵本のお陰でわかってきました。そう考えると、最近私の絵本についての記憶が加速度的にいい加減になっているのは、決して年齢のせいではなく、絵本の主人公達が次々と自我に目覚め始めているからなのだと納得できるのです…。

『三びきのこぶた』のお話をもとにした絵本は沢山ありますが、極悪非道のぶたが暴れ回る、『3びきのかわいいオオカミ』(オクセンバリー/絵 トリビザス/文 こだまともこ/訳 冨山房)もお薦めです。(T.S)

 

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