No 282
絵本のタイトル あなに
作者 長谷川集平
長谷川集平
訳者
出版社 エルくらぶ

282あなに

今回紹介する絵本の帯に、作者の『はせがわくんきらいや』と同じ1976年に出版された『あな』(谷川俊太郎 作・和田誠 画・福音館書店)へのオマージュでもある、と書かれてありました。
そこで、読み比べてみると、なるほど表紙などはそっくりで、登場人物も、主人公のひろしのキャチボール相手となる転校生のふくしましろう以外は全く同じでした。

しかし、それぞれの描かれ方は随分違っていて、いかにも昭和風のお父さんが、どくろの指輪をはめ、腰にジャラジャラと鎖をさげたミュージシャン風のお父さんに替わっているなどは、40年の歳月というよりも、和田誠と長谷川集平の違いなのだろうかと思いました。
また、内容となるとさらに違っています。何にもすることがなく穴を掘り始めたひろしに対し、今回のひろしは、転校して来たしろうとキャッチボールをする、というはっきりとした目的を持って登場してきます。いってみれば、幼稚園時代のひろしに替わって、小学校の高学年くらいに成長したひろしが描かれていると言えるのかもしれません。
『あな』で描かれていたものが、自分の発見と古い自分との決別という内的な行為であるのに対して、『あなに』で描かれているものは、友達と関わる中でしか遺せない少年時代の初々しも貴重な記憶の一コマであるように感じます。
長谷川集平は、2013年の『およぐひと』、2014年の『アイタイ』(ともにエルくらぶ)と,「東日本大震災」と、それに続く原発事故への思いを絵本にしています。『あなに』に登場する転校生の名前を考えると、この作品もそれらに続くもののように思えてしまいます。更に、ひろしの妹が抱えているぬいぐるみが、『あな』でのスヌーピーからくまもんに変わっていることは、「東日本大震災」に続く大きな地震が熊本を中心に起きてしまったことと併せて考えると、その偶然の一致に、ただただ驚くばかりです。(S.T)

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