No 168
絵本のタイトル あの森へ
作者 クレア・A・ニヴォラ
訳者 柳田邦男
出版社 評論社

168  『 あの森へ 』

親しかった大学の先輩から、勤めを辞めて家業を手伝うようになってからは自転車で行ける範囲しか出掛けなくなった。昔の村人みたいな生活をしている。という話を聞いたことがありました。どのくらい昔にまで遡らなければならないのかはわかりませんが、日本に限らず、自分の生まれた地域で一生を過ごすということが、多くの人にとって、ごく当たり前のことだったのかもしれません。

今回紹介する絵本も、「森ってこわいところだと、僕はいつも思っていた。村のはずれの、一番遠いところにある暗くてぶきみなところだと」という主人公の独白に始まり、表紙には、山の上の教会に見守られるように、身を寄せあって家々が建ち並ぶ村から続く道の途絶えた場所に、森が大きく広がっています。村人にとって、村のはずれは、そこから先には足を踏み入れてはいけない世界の果であり、そこに森が存在しているのです

それでも主人公は、ある夜のこと、あまりの恐ろしさにがまんができなくなり、森が本当に恐しいところなのかどうか確かめに行こうと決心をして、翌朝、独り森へと向かっていきます。森は本当に恐ろしいところだったのでしょうか...。

作者のクレア・A・ニヴォラは、「もったいない」ですっかり日本でも知られるところとなったケニアのマータイさんが、母国で取り組んでいる「森を復活させるグリーンベルト運動」を題材にした絵本『その手に1本の苗木を マータイさんの ものがたり』(評論社)の中でも、森の大切さを描いています。この絵本は勇気と挑戦の物語であるとともに、生物が生まれ育まれていく共生の場としての森の神秘的な営みを、私たちに垣間見せてくれます。(S.T

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