No 143
絵本のタイトル ひなたぼこ
作者 しゃしん/ぶん  かいほ あきこ
訳者
出版社 星雲社

143  『 ひなたぼこ 』

先月の絵本紹介の中で、趣味が「焚き火」「雨宿り」に「日なたぼっこ」と書いたせいではないのでしょうが、先日、友人から「教え子が出した写真集、ちょっとよいので送ります」との手紙と一緒に、この『ひなたぼこ』が送られてきました。本来は絵本を紹介するコーナーなのですが、何か縁があったようにも感じ、紹介させていただこうと思います。

話は少し変わりますが、先月参加した研修会での横浜国立大学、高橋 勝先生のお話の中に、次のような内容がありました。それは、「最近、大型書店の教育書コーナーは、学力、生きる力にはじまり、人間力、社会力、学校力、教師力といった『○○力』の向上をめざすパワーアップ本と、子どもや大人を癒すケア本という全く逆ベクトルの二種類に淘汰され、書店で見る限り、教育思考が二極分化してきたように見える。さらに、『○○力』という言葉を冠した教育書の止まるところのない広がりは、親であれ、教師であれ、教育という営みが、すべて個人の営みとして結果責任を問われるに至った時代の空気を反映しているといえるが、人間は教えることや学ぶことの結果責任をたった一人で背負えるほど強くはなく、能力アップを次々に要求されればされるほど、ストレスがたまり、無力感に悩まされることになる。そして、疲れ切った人を待ち受けているのが、心を癒すケア本であり、そこには、過重な責任感の呪縛を解いて、かけがえのない自己という存在をありのままに受容することの大切さと、そのノウハウが紹介されている。しかし、その結果、残念なことに子どもと一緒に生きることや学ぶことの喜びを、実感をこめて語る本が見当たらなくなってしまった」というものでした。 

実際、市内の幼稚園では、理由はいろいろあるにしても、一年を経ずに退職してしまう新任の保育者が増えていますし、小学校においても同じような傾向があると聞きます。この写真集の後書きにも、作者が次第に元気をなくし、心の病になってしまったと記されてあります。では、この本が、単なるケア本に類するのかというと、決してそうではなく、偶然に父親から譲られた古いカメラのレンズを通して感じ取っていった、作者自身の周りの自然や人々、一人ひとりの物語が、やわらかな言葉とともに豊かに綴られているように感じます。心に響く写真は、その背景にさまざまな物語が透けて見えるからなのでしょう。人が生きていること自体が素敵な物語であることを実感できる本だと思います。(S.T

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